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 1 横行するサービス残業

国内企業では、往々にしてサービス残業という慣行が横行しています。

そのため、買主としても、買収先の会社(対象会社)に未払時間外手当が存在することは、概ね予測しています。しかし、その総額や実際に請求されうるリスクの程度は、会社によって大きく異なっています。

一般的に、対象会社の売主は、未払時間外手当の総額が少ないものであり、実際に請求されるリスクも低いと説明する傾向にあります。売主としては、できる限り高く会社を売却しようと考えていることからすれば、これは非常に合理的な行動と言えるでしょう。

実際に、「未払時間外手当はほとんど存在しないし、存在していたとしても請求された事案はない」との説明を売主から受けることも、往々にして見られます。

 2 算定困難な未払時間外手当

デューデリジェンス手続は機密性が高いため、買収される企業の上層部しかデューデリジェンスが実施されていることを知らされないことが一般的です。

というのも、デューデリジェンス実施時に一般社員が買収される可能性があることを知ると、リストラされることを恐れて社員に動揺が走ったり、株価に影響を与えることがあるからです。

そのため、デューデリジェンスの過程において、サービス残業を行っている一般社員に対して、サービス残業の実態をインタビューすることは通常できません。

このことに加え、対象会社の売主から、各社員のタイムカードや実際に残業代が支払われている給与明細などを参考資料として提出されると、未払時間外手当がないと誤って判断してしまうことも考えられます。

しかし、過去に存在した事案では、取締役会議事録や稟議書などをつぶさに検討した結果、未払時間外手当の請求を受けた事案があることを発見し、そこを起点として経営者インタビューによって未払時間外手当の全貌が明らかとなりました。

 3 増加傾向にある未払時間外手当請求

近年、未払時間外手当の請求が労働審判や裁判等の法的手続で争われるケースが増加傾向にあります。

そのため、上記の事案でも、実際に請求されるリスクレートを引き上げて見積もり、その分を簿外債務として引当金計上することとなりました。その結果、買収価格も未払時間外手当の存在が勘案されることになりました。

また、買主に対しては、買収後には賃金規程を改定して、未払時間外手当が発生しないようにするようアドバイスし、新たな制度を整備することを講じました。

未払時間外手当は、原則として2年間の消滅時効にかかる範囲で残存しており(労基法115)、個人の基本給額やサービス残業時間によっては、各人1000万円に近い簿外債務となる可能性も秘めています。

一方で、未払時間外手当に関する判断は、労働関連の法務に精通している必要があり、財務デューデリジェンス側が苦手とする分野でもあります。

そのため、この分野では、法務デューデリジェンスの結果を会計デューデリジェンスに反映する必要性が高い分野と言えます。